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□    Xylophone Vol.0
Xylophone
 
おとぎばなし
 
昔々、世界にはそれは美しい双人の女神がいらっしゃいました。
姉の名をテレサ、妹の名をクレア、といいました。
テレサは美しい翼を持ち、空の住人たちに愛されました。
たくさんの鳥たちが、彼女をお嫁さんにしたいと願いました。
テレサはしかし、決して誰のお嫁さんにもなりませんでした。
テレサは空を愛していたのです。
いつしかテレサは、空という彼に恋い焦がれ、地上から去って行きました。
より近くで、彼を感じていられるように、空の中に生きました。
彼女を追って、たくさんの鳥たちが、木の上から空へと住まいを移しました。
誰もがテレサの気を引くために、きらびやかな巣を作り、美しい花束を携えてきました。
けれど、テレサは熱に浮かされたように、空にばかり目を向けていました。
彼女にとっては、周りの鳥達が、何をしていようが、何の興味もなかったのです。
妹のクレアは、美しくない娘でしたが、とてもかしこく、働き者でした。
彼女の働きぶりに、地上の人々は惹かれ、やがて彼女の周りに住まいを移しました。
クレアとクレアに惹かれた者たちは、少しずつ大地をならし、花を植え、美しい街を作っていったのです。
ところがある時、空から太陽が消えてしまいました。
空は真っ暗な闇に覆われ、作物は育たず、生き物たちは皆死んで行きました。
クレアは空を見上げ、ようやくあることに気がつきました。
太陽が消えたのではなく、太陽を覆い隠すものが、空の上に生まれてしまっていたのです。
これこそが、テレサの周りに作られた空の街でした。
鳥たちはテレサのために街を作るのに夢中で、地上に光が射さなくなることなど、どうでもよかったのです。
あいかわらず、テレサは空ばかりを見上げ、何も顧みませんでした。
クレアは怒り、空への階段を上り終わると、テレサの目を潰してしまいました。
テレサは、美しかったその瞳を、失ってしまいました。
それに怒った鳥たちは、地上を滅ぼそうと、空から飛び降りてきました。
けれど、巣を作るばかりで、他に何もしてこなかった鳥達は、地上の人間達に捕まり、焼いて食べられてしまいます。
鳥たちは、地上へ攻め入ることを、諦めました。
やがて月日がたち、地上は流行り病に襲われました。
人々も家畜も、次々と死んで行きました。
人々は、かつて交わりを絶った、空の国に逃げようとしました。
鳥たちの国は相変わらず美しく、病などに侵されはしなかったからです。
鳥たちは決して、ただでは人々を招きいれようとはしませんでした。
代わりに、クレアの両目を求めました。
人々はクレアの両目を差し出しました。
けれど鳥たちは、クレアの両目をテレサに返したのち、扉を閉ざしました。
【罪深く醜い生き物は、テレサには似合わない】
鳥たちはようやく、世界の支配者となったのです。
鳥たちがもしもまた、空を閉ざしてしまうなら、今度こそ人々になすすべはありませんでした。
人々は鳥にかしずくことを誓いました。
鳥たちは人の行いを許し、太陽の見える空と、病を治す薬を与えました。
人はようやく、【美しさ】を手に入れることとなりました。
 
 
「怖いよ、おかあさん」
年端のいかない稚児がぐずりだす。
古くから伝わる童話を語って聞かせていた母親は、苦笑しながらその子を抱き抱えた。
抱かれた子供より少し大人びた子供は、むっとしたまま母親に言った。
「やっぱりそのお話、何かが変だよ、おかあさん」
「そうね、わたしも子供のころはそう思ったけれど」
母親は子供たちの翼を優しく撫でる。
「けれど、大人になったら、その感覚はなくなってしまったわ。これはね、美しさを捨ててはいけないという教訓なのよ。私たちはみな等しく美しいけれど、それを失ったら、かつての【人】と同類。【鳥】である私たちは決して誇りを失ってはならないし、美しさを捨ててはだめよ」
母親は優しい声で言った。
 
「奇妙なことだね」
母子の会話を耳にした、通りすがりの青年はくすりと笑った。
「驚いた。救いようのない、と思っていた彼らでも、その子供はちゃんとまともな【感覚】とやらを持って生まれては来るものらしい」
青年はくつくつと喉を鳴らしながら家路へとつく。
「まあどうせ、その【本能】とやらも時が過ぎれば失われてしまうみたいだけれど」
美しさ美しさと狂ったように唱える彼らは等しく、
実は既にその美しさを失っていることに気づかない。
もともと持ってすらいなかったことにも気付かない。
「よくまあ、事実をあそこまで捻じ曲げられるなあ」
青年は白い玉座に腰かけると、嘆息した。
「童話って言うのは、少なかれ事実を脚色したものであるはずなのに、かけらも残っていないなんて」
青年の肩に止まった青い燕がキィキ、と鳴く。青年はその頭を指でそっと撫でて柔らかく笑った。
「まあ・・・あたってる部分なんてただのひとつだけ・・・かな。どうでもいいけど」
青年は、ふう、と長い溜息をついて、深く椅子に身をうずめた。
「ああ・・・まだかなあ。もう、僕ずっと待ってるんだけどねえ」
今日も、まだ【知らせ】は来ない。
彼はずっと待っていた。気が遠くなるような長い時間を。
正直、何度【止めようか】と思ったか覚えていない。それでも、どうしても、願わずにはいられなかった。そのためだけに生きたのだ。今まで、生きてきているのだ。
「童話、ね。せいぜい広めるがいいさ。僕は何にも手助けしない。【美しい】嘘に侵されているがいい。最期に鳴いてすがるがいいよ。僕の望みはそれだけだもの」
ふと、目の前に飛んできた小さな虫を、燕が素早くついばんだ。
青年は不快そうに笑う。
その目に映る虹色の光が、微かに陰る。
 
 


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